「民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)の見直しに関する中間試案」に対する意見

2022年9月28日

 

100-8977 東京都千代田区霞が関一丁目1番1号

          法務省民事局参事官室 御中

 

           〒154-0004

            東京都世田谷区太子堂4-7-4 セラピュアビル4階

            せたがや市民法律事務所内

             全国ヤミ金融・悪質金融対策会議

             代表幹事 弁護士 宇都宮 健児

第3(破産手続)の7(公告)について、下記のとおり、意見を述べる。

 

1 意見

 個人破産については、公告の在り方を見直し、官報への掲載を廃止すべきである(甲案・乙案に反対)。

 また、個人破産について、裁判所のウェブサイトに掲載する方法により公告を行うことは、相当でない(注1に反対)。

 個人破産については、公告事項を裁判所の掲示場へ掲示し、又は裁判所に設置した端末で閲覧できるようにする方法で、公告を行うこととすべきである(注2の前段の考え方に賛成)。

 

 

2 意見の理由

(1)当会議について

 全国ヤミ金融・悪質金融対策会議(以下「当会議」という。)は、消費者の生活と人権を守り、中小零細事業者の経営を守るため、多重債務被害を根絶することなどを目的として活動している団体である。

 1990年代後半から2000年代はじめにかけて、多重債務問題が深刻な社会問題となったが、改正貸金業法(2006年12月成立)により、貸金業者に対する規制を強化することとともに、新破産法(2005年1月施行)により、自由財産の範囲を拡大し、免責手続を合理化し、多重債務者の生活再建の手段として、個人破産を利用しやすくしたことは、多重債務問題の改善に大きく寄与してきた。

 しかし、このところ、以下に述べるとおり、破産法第1条に明記された「経済生活の再生の機会の確保」という目的を損なうような事態が生じていることは、当会議としても看過できないことから、次のとおり、意見を述べるものである。

 

(2)「新・破産者マップ」について

 2022年6月、「新・破産者マップ」なるウェブサイトが公開されていることが報道された。同サイトは、地図上のピンに付随する形で破産者の住所・氏名を表示するとともに、そのピンに付随する破産者の個人情報を非表示にするためには6万円を、ピンごと非表示にするためには12万円を、手数料として、ビットコインで支払う必要があるとしている。また、「このウェブサイトの運営は海外で行われており、現地の法律が適用されます。基本的な問合せは受け付けておりません。」としている。

 2019年3月に、インターネット上に破産者の個人情報を掲載した「破産者マップ」と称するウェブサイトが開設されることが広く知られるに至ってから、このようなウェブサイトが次々に現れている。個人情報保護委員会は、破産者マップやこれに類似するウェブサイトについて、個人情報保護法に違反するおそれがあるとして、行政指導を行い、勧告をし、停止命令をするなどの対応を行ってきた。しかし、あるウェブサイトが閉鎖されても、また新たな類似のウェブサイトが現れるということが繰り返され、この度、改めて、上記のような「新・破産者マップ」という極めて悪質なウェブサイトが登場するに至ったのである。

 2022年7月20日、個人情報保護委員会は、「新・破産者マップ」の運営者(氏名不詳・所在不明)に対し、同ウェブサイトについて、個人情報保護法に違反していることを理由に、公示送達の方法で、停止勧告を実施したが、その後も、同ウェブサイトは閉鎖されず、今も公開され続けている。

 

(3)公告の在り方を見直すべきこと

 上記のようなウェブサイトの存在により、このところ、過去に破産した人が、その事実を知人に知られるなどし、多大な精神的苦痛を受けるという事例が発生している。また、多重債務者が、破産した場合の情報拡散を恐れるあまり、債務整理の手段として、自己破産手続を選択することができないという事態も生じている。このような状況を放置することは、破産制度の「経済生活の再生の機会の確保」(破産法第1条)という趣旨を失わせるに等しく、到底看過できない。

 これまで、個人情報保護法の改正により、不適正な個人情報の利用の禁止条項を制定し、個人情報保護委員会により、違法なウェブサイトに対しては、繰り返し、行政指導をし、勧告をし、停止命令をするなどの対応を行ってきたにもかかわらず、その後も、同様の被害が生じていることからすれば、個人情報保護法による対策だけでは限界があることは、明らかである。

 したがって、この際、個人破産については、公告の在り方を見直すこととし、官報掲載を廃止すべきである(甲案・乙案に反対)。

 また、個人破産について、裁判所のウェブサイトに掲載する方法により公告を行うことは、現状の官報公告にも増して、かえって、不必要に破産者の情報が拡散されるおそれがあるから、妥当でない(注1に反対)。

 個人破産については、公告事項を裁判所の掲示場へ掲示し、又は裁判所に設置した端末で閲覧できるようにする方法で、公告を行うこととすべきである(注2の前段の考え方に賛成)。この点については、旧破産法(366条、116条)で、小破産手続に関する公告は、裁判所等の掲示場に掲示する方法によるものとされていたことが参考になる。

 

(4)利害関係人の手続保障について

 公告事項を裁判所の掲示場へ掲示し、又は裁判所に設置した端末で閲覧できるようにする方法で、公告を行うこととした場合には、官報掲載や裁判所ウェブサイトへの掲載と比較して、周知性には劣ることになる。

 しかし、法人の破産手続における公告と、個人(自然人)の破産手続における公告は分けて考えるべきである。法人の破産手続とは異なり、自然人については、「経済生活の再生の機会の確保」(破産法第1条)や、個人情報の保護、名誉・プライバシーの侵害防止という観点も考慮した上で、公告制度の在り方を検討する必要があるからである。そして、破産者マップ等のウェブサイトにより、破産者情報の拡散が看過できない事態を招いていることからすれば、現状の官報公告を維持すべきでないし、裁判所ウェブサイトに掲載する方法により公告を行うことも妥当でない。

 公告の方法を、従前よりも周知性の低い方法に変更することについては、利害関係人の手続参加等の機会が失われるのではないか、との指摘もある。しかし、債務者が「虚偽の債権者名簿」を提出することは免責不許可事由となり、かつ「破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権」は非免責債権となるから、債務者は、通常、自らの把握する全ての債権者について、正確に記載した債権者一覧表を提出するものである。そして、債権者一覧表に記載された全ての債権者について、破産手続開始の通知がされるから、必ずしも、官報掲載や裁判所ウェブサイトへの掲載という方法によらずとも、基本的に、全ての利害関係人に対して、手続参加の機会が確保されている。

 そして、これまでも、利害関係人への告知手段として実際に機能してきたのは、官報公告よりも、個別の通知であったことをあわせ考えれば、今後、個人破産について官報公告を廃止し、裁判所ウェブサイトへの掲載もせず、裁判所の掲示場への掲示または裁判所設置端末での閲覧による公告のみとした場合でも、そのために、利害関係人が手続参加できなくなるという弊害が生じることは、ほとんどないと言える。

 

(5)結論

 よって、当会議は、「民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)の見直しに関する中間試案」の第3(破産手続)の7(公告)について、第1項記載のとおり、意見を述べる。

以上

 

第3(破産手続)の7(公告)について、下記のとおり、意見を述べる。

 

1 意見

 個人破産については、公告の在り方を見直し、官報への掲載を廃止すべきである(甲案・乙案に反対)。

 また、個人破産について、裁判所のウェブサイトに掲載する方法により公告を行うことは、相当でない(注1に反対)。

 個人破産については、公告事項を裁判所の掲示場へ掲示し、又は裁判所に設置した端末で閲覧できるようにする方法で、公告を行うこととすべきである(注2の前段の考え方に賛成)。

 

 

2 意見の理由

(1)当会議について

 全国ヤミ金融・悪質金融対策会議(以下「当会議」という。)は、消費者の生活と人権を守り、中小零細事業者の経営を守るため、多重債務被害を根絶することなどを目的として活動している団体である。

 1990年代後半から2000年代はじめにかけて、多重債務問題が深刻な社会問題となったが、改正貸金業法(2006年12月成立)により、貸金業者に対する規制を強化することとともに、新破産法(2005年1月施行)により、自由財産の範囲を拡大し、免責手続を合理化し、多重債務者の生活再建の手段として、個人破産を利用しやすくしたことは、多重債務問題の改善に大きく寄与してきた。

 しかし、このところ、以下に述べるとおり、破産法第1条に明記された「経済生活の再生の機会の確保」という目的を損なうような事態が生じていることは、当会議としても看過できないことから、次のとおり、意見を述べるものである。

 

(2)「新・破産者マップ」について

 2022年6月、「新・破産者マップ」なるウェブサイトが公開されていることが報道された。同サイトは、地図上のピンに付随する形で破産者の住所・氏名を表示するとともに、そのピンに付随する破産者の個人情報を非表示にするためには6万円を、ピンごと非表示にするためには12万円を、手数料として、ビットコインで支払う必要があるとしている。また、「このウェブサイトの運営は海外で行われており、現地の法律が適用されます。基本的な問合せは受け付けておりません。」としている。

 2019年3月に、インターネット上に破産者の個人情報を掲載した「破産者マップ」と称するウェブサイトが開設されることが広く知られるに至ってから、このようなウェブサイトが次々に現れている。個人情報保護委員会は、破産者マップやこれに類似するウェブサイトについて、個人情報保護法に違反するおそれがあるとして、行政指導を行い、勧告をし、停止命令をするなどの対応を行ってきた。しかし、あるウェブサイトが閉鎖されても、また新たな類似のウェブサイトが現れるということが繰り返され、この度、改めて、上記のような「新・破産者マップ」という極めて悪質なウェブサイトが登場するに至ったのである。

 2022年7月20日、個人情報保護委員会は、「新・破産者マップ」の運営者(氏名不詳・所在不明)に対し、同ウェブサイトについて、個人情報保護法に違反していることを理由に、公示送達の方法で、停止勧告を実施したが、その後も、同ウェブサイトは閉鎖されず、今も公開され続けている。

 

(3)公告の在り方を見直すべきこと

 上記のようなウェブサイトの存在により、このところ、過去に破産した人が、その事実を知人に知られるなどし、多大な精神的苦痛を受けるという事例が発生している。また、多重債務者が、破産した場合の情報拡散を恐れるあまり、債務整理の手段として、自己破産手続を選択することができないという事態も生じている。このような状況を放置することは、破産制度の「経済生活の再生の機会の確保」(破産法第1条)という趣旨を失わせるに等しく、到底看過できない。

 これまで、個人情報保護法の改正により、不適正な個人情報の利用の禁止条項を制定し、個人情報保護委員会により、違法なウェブサイトに対しては、繰り返し、行政指導をし、勧告をし、停止命令をするなどの対応を行ってきたにもかかわらず、その後も、同様の被害が生じていることからすれば、個人情報保護法による対策だけでは限界があることは、明らかである。

 したがって、この際、個人破産については、公告の在り方を見直すこととし、官報掲載を廃止すべきである(甲案・乙案に反対)。

 また、個人破産について、裁判所のウェブサイトに掲載する方法により公告を行うことは、現状の官報公告にも増して、かえって、不必要に破産者の情報が拡散されるおそれがあるから、妥当でない(注1に反対)。

 個人破産については、公告事項を裁判所の掲示場へ掲示し、又は裁判所に設置した端末で閲覧できるようにする方法で、公告を行うこととすべきである(注2の前段の考え方に賛成)。この点については、旧破産法(366条、116条)で、小破産手続に関する公告は、裁判所等の掲示場に掲示する方法によるものとされていたことが参考になる。

 

(4)利害関係人の手続保障について

 公告事項を裁判所の掲示場へ掲示し、又は裁判所に設置した端末で閲覧できるようにする方法で、公告を行うこととした場合には、官報掲載や裁判所ウェブサイトへの掲載と比較して、周知性には劣ることになる。

 しかし、法人の破産手続における公告と、個人(自然人)の破産手続における公告は分けて考えるべきである。法人の破産手続とは異なり、自然人については、「経済生活の再生の機会の確保」(破産法第1条)や、個人情報の保護、名誉・プライバシーの侵害防止という観点も考慮した上で、公告制度の在り方を検討する必要があるからである。そして、破産者マップ等のウェブサイトにより、破産者情報の拡散が看過できない事態を招いていることからすれば、現状の官報公告を維持すべきでないし、裁判所ウェブサイトに掲載する方法により公告を行うことも妥当でない。

 公告の方法を、従前よりも周知性の低い方法に変更することについては、利害関係人の手続参加等の機会が失われるのではないか、との指摘もある。しかし、債務者が「虚偽の債権者名簿」を提出することは免責不許可事由となり、かつ「破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権」は非免責債権となるから、債務者は、通常、自らの把握する全ての債権者について、正確に記載した債権者一覧表を提出するものである。そして、債権者一覧表に記載された全ての債権者について、破産手続開始の通知がされるから、必ずしも、官報掲載や裁判所ウェブサイトへの掲載という方法によらずとも、基本的に、全ての利害関係人に対して、手続参加の機会が確保されている。

 そして、これまでも、利害関係人への告知手段として実際に機能してきたのは、官報公告よりも、個別の通知であったことをあわせ考えれば、今後、個人破産について官報公告を廃止し、裁判所ウェブサイトへの掲載もせず、裁判所の掲示場への掲示または裁判所設置端末での閲覧による公告のみとした場合でも、そのために、利害関係人が手続参加できなくなるという弊害が生じることは、ほとんどないと言える。

 

(5)結論

 よって、当会議は、「民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)の見直しに関する中間試案」の第3(破産手続)の7(公告)について、第1項記載のとおり、意見を述べる。

以上

 

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